2024年2月8日(木)[ハイブリッド開催]

Rare Disease Day
2024 シンポジウム
みんなで正しく知って伝えよう、希少遺伝性疾患

イベントレポート

武田薬品のシンポジウムとして5回目、RDD Japan事務局との共催として4回目の開催となるRDD 2024シンポジウム。当日は450名を超える方に会場とオンラインでご参加いただきました。参加者からは、「遺伝カウンセリングについて初めて知った。近々受ける機会を持ちたい」「『希少』と言われる疾患であっても、研究されている医療者や支援者がいることが支えになるのではないかと感じられた」「希少疾患について知らなかったことを恥じるより、知ったことで出来ることの実行に注力したいと思った」といった感想が寄せられました。

  • 村山 圭 先生
  • 武田 恵利
  • 柏木 明子

2024年のシンポジウムは、「みんなで正しく知って伝えよう、希少遺伝性疾患」をテーマに、医師・遺伝カウンセラー・患者家族会の立場からそれぞれ最新の取り組みをご紹介いただき、パネルディスカッションも実施しました。シンポジウムの模様をダイジェストでお届けします。
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講演1
希少遺伝性疾患の早期診断・治療を可能にする取り組みで、
子どもやご家族の未来に光を

希少遺伝性疾患の現状と課題について、順天堂大学大学院医学研究科難治性疾患診断・治療学講座で教授を務められている村山圭先生よりご講演いただきました。

まずは、「遺伝とは親から子どもへと特徴が受け継がれていく現象のことを言いますが、その担い手となるのが遺伝子。これは設計図、あるいは情報というふうに言い換えることができます。私たちの体は36兆個の細胞からできており、各細胞に遺伝子が収納されていますが、それをよく見ると、染色体があってDNAと呼ばれるものが折りたたまっているのです。そして、このDNAが遺伝子の本体となります。免疫細胞を例に取りますと、遺伝子の変化が何もない場合は問題ありません。ただ、設計図である遺伝子に変化が起きると違う部品ができてしまい、場合によっては免疫細胞が機能できない状況に陥ってしまいます。この変化が良い方向と悪い方向どちらに出るかという違いなのです。希少疾患は世界で1万種類以上存在しているといわれ、そのうちの約8割が遺伝性の疾患。これを希少遺伝性疾患と呼びます」と村山先生から説明がありました。

また、「希少疾患というのは、患者数が非常に少ない疾患のことで、薬機法に基づき厚生労働省省令で『国内患者5万人未満のもの』と定められています」。ただ、一つ一つは希少でも種類が多いため、患者数は人口の5%3とも言われ、決して珍しくはないと捉えています。そんななかで課題となっているのは、専門医が不足していることによって診断が遅れ、そして治療が遅れてしまうこと。さらに疾患の自然歴(医療の介入がない場合の疾患の進行)といった情報も不足しており、治療薬の開発が進みにくい、同じ疾患の患者さんが少なく共感し合える仲間がいない、患者会がないことの方が多い、というのが現状です。周囲の正しい知識や理解が不足していることによる誤解や偏見は年配の方々に多く、地域格差もあると感じています。一方、希少遺伝性疾患の一つであるミトコンドリア病の診断では、遺伝学的検査により遺伝子が同定されて病態が分かり、これに基づく治療法が少しずつ出てきています。日本に一例しかないような希少疾患でも、国際連携によって病態を明らかにし、さらに治療法を見つける取り組みが進んでいます」と村山先生は語ります。

そして、「希少遺伝性疾患の早期発見、早期治療に極めて効果的な方法の1つが、拡大新生児スクリーニング、あるいは新生児オプショナルスクリーニングと言われているものです。現在、国内で生まれた赤ちゃんは、先天代謝異常症が18疾患、内分泌疾患が2疾患、合わせて20疾患の新生児マススクリーニングを受けています。この20疾患以外にも早期発見で治療可能な疾患があり、拡大新生児スクリーニングを実施している地域は増えてきています。 少子化の時代でもあるので、1人1人の子どもたちを大切に見守り、成長させていかなければなりません。こういったスクリーニングも含めて、子どもの未来に光を当て続けたいです」という言葉で締めくくられました。

出典:

1. Orphadata https://www.orphadata.com/

2. IFPMA, Rare Diseases: shaping a future with no-one left behind
https://www.ifpma.org/wp-content/uploads/2023/01/i2023_IFPMA_Rare_Diseases_Brochure_28Feb2017_FINAL.pdf

3. Leaving no-one behind: a set of policy principles to meet the global challenge of RARE DISEASES
https://asrid.org/files/IFPMA_Rare_Diseases_Policy_Principles_28Feb2017_FINAL.pdf

講演2
遺伝カウンセリングでこれからの人生を一緒に考えていくお手伝いを

次に「遺伝カウンセリングを活用しよう」と題して、名古屋市立大学大学院医学研究科臨床遺伝医療部で特任助教の認定遺伝カウンセラー®、武田恵利様よりご講演いただきました。

まず、「遺伝カウンセリングとは、疾患の遺伝学的関与について医学的影響、心理学的影響及び、家族への影響を人々が理解し、それに適応していくことを助けるプロセスを指します。つまり、遺伝に関わる悩みや不安、疑問など持たれる方々に科学的根拠に基づく正確な遺伝学的情報を分かりやすく伝えて理解できるお手伝いをする、ということです。その上で、当事者ご自身の力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決していけるように、心理面や社会面も含めた支援を行っていきます。この遺伝カウンセリングを専門とする職種として、医師である臨床遺伝専門医と、非医師である認定遺伝カウンセラーがおりますが、私もこの認定遺伝カウンセラーの1人です」と説明されました。

実際の遺伝カウンセリングについては、「遺伝性疾患を持つ方、可能性がある方、ご本人、ご家族など、遺伝や遺伝性疾患に関する悩みや不安を抱えている方、問題に直面されている方など、どなたでも対象となります。“究極の個人情報”と呼ばれる遺伝に関する相談であるため、プライバシー配慮の観点から一般的な外来とは異なり、独立した場所で行われることが多いです。受診では来談の経緯を確認したあとに、家族歴を伺い、医学的、遺伝学的情報の整理や情報提供を行いながら1時間くらい時間をかけてお話をしていきます。社会資源の例としては、患者会や当事者団体の情報、助成制度について情報提供させていただきます。そして最後に今後の方針についてお話ししますが、遺伝カウンセリングの中で何かを決定しなくてはいけないというわけではありません。お話を聞いてから臨機応変に考えていただいて結構ですし、何回でも受診することができます」と武田様は言います。

遺伝カウンセリングに来られる方は、「どうしてこの疾患が起きたのか」「なぜ私に、もしくはなぜ私の子どもにこの疾患が起きたのか」とお話しされることが多いそうです。その問いの背景について武田様は、「遺伝カウンセリングに来られる方の中には、インターネットなどで疾患や遺伝との関係についてご自身で調べて、情報が少なくて失望したり、誤解している方がいらっしゃいます。また、聞きなじみのない疾患や遺伝という言葉に対するネガティブなイメージから、家族や親戚に言えずにいる人もいるようです。情報が少ないがゆえに、『こんなにつらいのは私だけではないか』『どうしてうちの子どもだけ』と孤独に感じてしまう場合もあるかと思います。遺伝と言うと特別なことと考えられる方もいるようですが、遺伝は身近なものであり、遺伝性疾患は誰にでも起こる可能性があります。それだけに診療では、ゆっくりと時間をかけてお話を伺い、遺伝カウンセリングだけではなく、様々な職種によるアプローチから今後の人生を一緒に考えていくお手伝いをさせていただきたいと思っています」とお話されていました。

遺伝カウンセリングの現状と課題については、「遺伝カウンセリング外来を開設する病院も増えていますが、まだ全国どこでも利用できるほどには普及していません。各診療科でも遺伝子検査が日常診療として扱われるようになってきたので、以前よりは認知度も上がってきたとは思いますが、医療従事者の方の中にも『遺伝カウンセリング』という言葉になじみがないのが現状です。私たち認定遺伝カウンセラーは、院内での勉強会や今回のような会をはじめ様々な場を利用して、遺伝カウンセリングの認知向上に努めています」と語りました。

そして最後に、「遺伝カウンセリングがさらに活用されるために必要なのは、遺伝カウンセリングのアクセス面。日本でも導入施設は増えているものの、欧米と比べると電話やオンラインでの遺伝カウンセリングは普及していません。希少遺伝性疾患の患者さんの場合、複数の病院に通院していることが多く遺伝カウンセリングまで受けられないといった方や、自宅近くに遺伝カウンセリングを実施する場所がなく長距離の移動が大変といった方がいるので、オンライン相談の需要は高いと思われます。また、遺伝カウンセリングを専門とする人材の確保も重要な課題です。遺伝カウンセラーという職業はまだ認知度が低く、歴史の浅い職種だけに病院側の雇用体制や給料、待遇などにばらつきがあります。
職業としての認知や地位向上が、遺伝カウンセリングの普及と、ひいては希少遺伝性疾患の理解促進にもつながると考えています。ペイシェント・ジャーニーにおける患者さんの苦悩はいろいろあると思いますが、様々な医療サービスの一つとして遺伝カウンセリングを活用していただきたいです」と武田様が自身の思いを述べられました。

講演3
途方にくれているパパ・ママの心のよりどころを目指して

「患者家族の立場から」と題して、有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会「ひだまりたんぽぽ」代表である柏木明子様よりご講演いただきました。

「息子が生まれたのは20数年前のことですが、元気に誕生したものの、生後5日目にメチルマロン酸血症と診断されました。当時はすぐに診断されることは稀で、メチルマロン酸血症の生後1か月の生存率は50%と言われていました。生体肝移植を経て、自宅に息子を連れて帰る日を迎えることができ、この時から続く感謝が患者会活動の原動力になっています。私たちの患者会には、主に有機酸が溜まる有機酸代謝異常症や、脂肪酸をうまくエネルギーとして利用できない脂肪酸代謝異常症の方々が集っており、合わせて25疾病以上の方がいますが、いずれも医師にほとんど知られておらず、診断がつきにくく、長く生きられない病気とされていました。しかし、10年ほど前から全国の自治体で、このうちの12疾病が新生児マススクリーニングの対象となり、早期の治療開始によって、多くの子どもたちが大人になれる時代になってきたのです」と柏木様は言います。

そして、「この珍しい病気を全国の医師に知っていただきたい」「同じように不安の中にいる当事者や家族に寄り添って支え合いたい」といったことを目的に、現在の会の前身となる「プロピオン酸血症とメチルマロン酸血症の会」を2005年に発足しました。 その後、他の先天性代謝異常症など患者会のない約 20 疾患のご家族も加わるようになり、名前を「ひだまりたんぽぽ」に改称しています。

一方で、生まれて間もない我が子が命に関わる病気と告げられて頭が真っ白になってしまう家族の思いについては、「病気のメカニズムも十分理解できないまま、いきなり病気の発症を予防する行動を取らなければなりません。病気によって異なりますけれども、突然死の可能性もあるため、心身ともに余裕のない日々を送ることになります。担当医だけで、当事者である赤ちゃんや家族をまるごとサポートするというのは非常に厳しいことなので、ここに欠かせないのが遺伝カウンセラーさんの存在だと私は思っています。新生児マススクリーニング対象疾患の告知と、その後のサポートに遺伝カウンセラーが保険診療として主治医との両輪で関わっていただく体制づくりがこれからは重要だと考えています」と訴えます。患者会では、そういった方々に向けての交流会や専門医をお招きして勉強会を開催したり、疾病別のハンドブック作成にも取り組んだりしているそうです。

また、社会生活を送る上で、理不尽や無理解に悩む時があるとも明かす柏木様。「幼少期においては、保育所や園の受け入れを拒否される、給食の調整に対応してもらえない、まだ症状がないのに病名があるというだけで学資保険にすら入れないことがありました。成人になってからの課題は、病名があるだけで任意保険に入れない、疲れやすい体質であることが理解されにくい、医療費助成がなくなってしまうなど。さらに先天性代謝異常症は、成人診療科に受け手となる診療科がないので、いつまでも小児科にかかり続けなければいけないという問題もあります」と話します。

最後に、「発症予防をしながら社会生活を送るためには、切れ目のない医療環境と社会保障、社会の理解が必要。家族や本人はこうした未来があるのだということを幼少期からイメージし、どう対策していくか主治医や遺伝カウンセラーさんとともに相談することが大切です。そして、様々な分野の専門家や移行期支援外来などに携わる方々とのご縁を早いうちから広げ、セーフティーネットや地域とのつながりを作っていく。こうした努力が必要だなと自身の経験から思っています」と言って締めくくられました。

パネルディスカッション
三者三様の立場から 正しく伝える、伝え続けることの大切さ

シンポジウム後半は、RDD Japan事務局の西村由希子がファシリテーターを務め、3名の登壇者が意見を交わすパネルディスカッションを実施しました。

村山先生は医師の立場から「遺伝カウンセラーさんには、患者さんと私たちの間にいつもいてもらいたいと思いました。患者さんとの信頼関係を作る上でも、遺伝カウンセラーの仕事は非常に重要です」とコメント。武田様は柏木さんに関して、「患者会の情報を悩んでいる方に伝えると、『自分だけじゃなかった』『視野が広がった』とおっしゃる方は多いですし、患者家族向けハンドブック の作成などは素晴らしい取り組みです」と感想を述べられました。そして、柏木様からは「村山先生たちがどれほど尽力されているのかを知って元気をいただきましたが、その一方で主治医に遺伝カウンセラーの話をどう切り出したらいいのか、同じ病院内でも理解してくださる方とそうでない方がいて苦しんだ経験もありました」というリアルなコメントもありました。

また、「健康や医療についてネット検索する時代において、どのようなことに気をつければいいのか?」という情報リテラシーに関する視聴者からの問いに柏木様は、「ネットにはいろんな情報があるので見ることは構わないけれど、主治医の先生や遺伝カウンセラーさんから『全てを鵜呑みにしてはいけない』ということをしっかりと伝えていただくことは大事です」と回答されました。そのほか、「患者である子どもへどう説明するのが望ましいか」という質問には、村山先生から「子どもの年齢や個性によるので共通の正解はない。ただ、寄り添うことは重要なので、そういうときに遺伝カウンセラーが積極的に入って行くのがいいと思います」という説明がありました。

様々な質問が飛び交うなか、武田様からも「遺伝カウンセリングで扱う内容というのは、社会に直結していくようなお話にもなると思っています。遺伝に対する偏見やネガティブなイメージに悩んでいる人もいますが、病気であってもなくても誰もが生きやすい社会をみんなで考えていけたらと。そういったこともこのような会を通して発信していきたいです」とメッセージをいただきました。

今回の対話を通じて、医師だけでなく医療者と患者サイドが各々の視点から話すことの重要性を感じたファシリテーターの西村は、「希少疾患に関する情報を、いろいろな立場から丁寧に伝えていくこと、そして伝え続けることが重要ということですね」と述べてディスカッションを終了しました。

「みんなで正しく知って伝えよう」とのテーマで、希少遺伝性疾患について、医師・遺伝カウンセラー・患者家族会の立場からそれぞれの取り組みをご紹介いただいた今回のRDD 2024シンポジウム。希少遺伝性疾患の早期診断・治療を可能にする取り組みや、患者さんやご家族を取り巻く環境の向上など、より明るい未来をイメージできると会となりました。

閉会挨拶として、RDD Japan事務局の江本駿が「希少遺伝性疾患はまだ課題も多いですが、明るい方に向かっている予感を今回のシンポジウムでは感じることができました。今年は記念すべき15回目の世界希少・難治性疾患の日のイベントが開催されますので、皆様と一緒に楽しめることを心待ちにしております」と言って締めくくりました。

武田薬品工業では、今後も希少疾患に関わる課題を解決し、世界中へ革新的な医薬品をお届けするための取り組みを行ってまいります。

シンポジウム概要Rare Disease Day 2024 シンポジウム
みんなで正しく知って伝えよう、希少遺伝性疾患

日時:
2024年2月8日(木)18:30~20:10
共催:
武田薬品工業株式会社、RDD Japan事務局
登壇者:

順天堂大学大学院医学研究科難治性疾患診断・治療学講座 教授 村山 圭先生

名古屋市立大学大学院医学研究科臨床遺伝医療部 特任助教 認定遺伝カウンセラー® 柏木 明子様

有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会「ひだまりたんぽぽ」代表 柏木 明子様

パネルディスカッション進行:RDD Japan事務局 西村 由希子

「世界希少・難治性疾患の日」
(Rare Disease Day:RDD)とは

2月29日がrare(稀)な日であることから2008年にヨーロッパで始まり、それ以来、2月最終日に世界各国でイベントが開催されている希少疾患の認知向上を目指すイベントです。
現在は述べ100カ国でRDDが開催され、日本では2010年の東京開催を皮切りに開催地域が増えています。

RDD Japan 2024 イベント全体のテーマは「めぶく、であい。たっぷり、いっしょに。」です。

RDD 2024について
https://rddjapan.info/2024
武田薬品工業株式会社 日本における希少疾患の課題
https://www.takeda.co.jp/patients/rd-support/wp/