武田薬品のシンポジウムとして4回目、RDD Japan 事務局との共催として3回目の開催となるRDD 2023シンポジウム、当日は200名以上の方に会場とオンラインでご参加いただきました。参加者からは、「当事者の経験を直接伺える貴重な場だった」「当事者が抱える課題がわかったのと同時に、今後のテクノロジーと医療に希望が感じられた」「テクノロジーを駆使して課題解決できれば、誰もが生きやすい社会に近づくと感じた」といった感想が寄せられました。
今年のシンポジウムは、「つなげる!希少疾患とデジタルテクノロジー」をテーマに、当事者・医療現場・支援企業の立場からそれぞれ最新の取り組みをご紹介いただき、パネルディスカッションも実施しました。シンポジウムの模様をダイジェストでお届けします。
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講演1
難病の課題解決から「希望のテクノロジー」を発想‐できないことではなく、できることに没頭する
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講演2
AIを活用することで、患者さんやご家族に寄り添える時間を増やしたい
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講演3
1日でも早い治療の開始へ、インターネットとメディアが貢献できること
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パネルディスカッション
三者三様の立場からみえてくる、デジタルテクノロジーと医療の未来とは
講演1
難病の課題解決から「希望のテクノロジー」を発想
‐できないことではなく、できることに没頭する
武藤様の講演は、視線入力で自ら作詞作曲した音楽のDJパフォーマンスからスタートしました。武藤様は広告プランナーとして働いていた2014年に難病ALSを発症したことを機に、一般社団法人WITH ALSを起業。「ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦できるBORDERLESSな社会の創造を目指す」と活動の理念を話されました。
そして、ALSの困難からイノベーションを生む、とのマインドで日々挑戦を続けるなかでの、3つのテクノロジー開発事例をご紹介いただきました。
- 1. ALS当事者の“声”を救う 「ALS SAVE VOICE」プロジェクト
- 音声合成技術「コエステーション」と視線を使った意思伝達装置「OriHime eye」を連携させた、ALS当事者が自分の声で発話できるサービスの研究・開発。
- 2. 視線入力装置を使った音楽活動
- 2016年に世界初のアイトラッキングDJに成功、2022年には新しく目で演奏する楽器を開発し、ライブパフォーマンスは世界中で反響があった。
- 3. 脳波と分身ロボットの技術を融合
- 脳波で分身ロボットを操作し接客する、世界初のアパレルストア公開実験に成功。
脳波を用いたコミュニケーションは、武藤様が最も注力しているデジタルテクノロジーの一つで、ALS当事者の最後の希望になるといいます。今後視線も動かせなくなる「TLS(Totally Locked-in State)」という状態になっても、脳波で分身ロボットを操作し、会話や仕事を続けていける未来を目指して、研究を続けています。
このように、「テクノロジーを有効活用しさらに進化させていけるのは、日々さまざまな困難や制約に直面している当事者である。失った身体機能の補完にとどまらず、体を拡張させて進化していける、誰もがワクワクできる未来を目指して挑戦を続けたい」とデジタルテクノロジーの研究開発にかける想いを語られた武藤様。次の言葉で講演を締めくくりました。「“人生とはできないことを悲しむことではなく、できることに集中することである”というのはスティーブン・ホーキング博士の言葉です。これが僕の進行性難病とその恐怖への向き合い方そのもので、今の僕にできること、今の僕だからこそできることに毎日没頭するようにしています。」
講演2
AIを活用することで、患者さんやご家族に寄り添える時間を増やしたい
次に、医療現場でのデジタルテクノロジーの実装について、笠原群生様にご講演いただきました。笠原様が病院長を務める国立成育医療研究センターでは、成育医療における「AIホスピタル※」実現のため、各医療シーンに特化したAI(人工知能)技術の導入を進めています。
同センターにおいて、小児希少・難病AI診断補助システムが開発され、遺伝子検査前に症状や画像によるAI診断を行うことで、早期治療が可能となった事例や、電子カルテへの音声入力システムにより医療現場の効率化が進んでいる現状などを紹介いただきました。
電子カルテの例では、発した言葉がテキストとして自動入力されることで、医療者の手が空き、治療や患者さんとのコミュニケーションに集中できるようになったそうです。笠原様は、「AIと聞くと『冷たい医療』、患者さんとの距離ができるように感じる方もいますが、AIによって効率化できた時間でもっと患者さんやご家族のケアができる。『思いやりの医療』につながるものです。」とAI活用の意義を語られました。
また講演では、先天性の代謝性疾患についても触れ、小児希少疾患に対する再生医療を応用した最前線の取り組みについてご紹介いただきました。「今後も希少疾患の患者さん、ご家族に真摯に向き合い、一生懸命、職員全員で働いていきたいと思います」と締めくくられました。
※ 国立成育医療研究センターは、内閣府の「AI ホスピタルによる高度診断・治療システム」研究に参画
講演3
1日でも早い治療の開始へ、インターネットとメディアが貢献できること
日本の医師の約9割が登録する医療ポータルサイト「m3.com」を運営するエムスリー株式会社は、インターネットやメディアを活用した医療現場へのソリューションを提供しています。
高山様のご講演では、希少疾患のペイシェントジャーニーに沿って利用できる3つのサービスをご紹介いただきました。高山様は、一般の方が「AskDoctors」にて、医師への健康相談が24時間できることで、受療行動の促進や希少疾患の早期発見につながること、日本最大級の医療従事者専用サイト「m3.com」では、診断にあたり医療従事者が希少疾患を含む疾患に関する情報収集を効率的にできるような仕組み「Docpedia CaseSearch」を提供していることを説明されました。また、「QLife(キューライフ)」には、病院検索や疾患別メディア、オンラインコミュニティなどのサービスがあり、希少疾患を含むさまざまな疾患の当事者がほしい情報にアクセスできるようになっているといいます。
また、最新の取り組みとして、医療・人・ITの力で当事者があきらめていた願いを叶えるプロジェクト「CaNow(カナウ)」をご紹介。高山様は、「こうした活動をどんどん発信していくことで※、社会に対して希少疾患の認知を広めていくことにつながっていくと思います」と話されました。
※ 講演では2つの動画を紹介
パネルディスカッション
三者三様の立場からみえてくる、デジタルテクノロジーと医療の未来とは
シンポジウム後半は、RDD Japan事務局の西村由希子がファシリテーターを務め、3名の登壇者が意見を交わすパネルディスカッションを実施しました。武藤様は「僕自身ALSと確定されるまでに1年以上様々な病院を探し回って苦労した経験があるので、エムスリーさんの検索システムに当時出会いたかった」とコメント。高山様からの「どのような発想でイノベーションを生み出し続けているか」という質問に対しては、「常にデジタルテクノロジーにアンテナを張り、企画段階からいかにテクノロジーを掛け合わせて新しい価値を生み出せないか考えている」、と語りました。
医療とデジタルテクノロジーの発展はどこに向かうかという問いに、笠原様は「AIを使うことで医療者がより患者さんに寄り添える時間を確保するのが目標です。当事者自身がデジタルテクノロジーにそれほど強くなくても、そのメリットは享受できることでしょう。」とご回答。高山様は、「デジタルテクノロジーが進むと、情報を取りにいかなくとも、必要な情報がやってくる時代が来るのではないかと思います。そうすれば、希少疾患の確定診断までの時間を短縮し、早期治療が可能になるでしょう。」との考えを述べられました。
武藤様からは、次のメッセージをいただきました。「デジタルテクノロジーを活用する意味は、医療や希少疾患の世界でこれまで不可能と言われていたことを可能にし、その実現スピードを加速させていくことだと考えています。できない理由を考える前に、使えるテクノロジーを探すとの発想で、これからもALSの課題解決に取り組んでいきます。その解決策は、超高齢化が進む日本社会において一般の方にも有効なものが必ずあります。そのような視点でもっと多くの方に希少疾患の支援に関心をもっていただきたいです。」
ファシリテーターを務めた西村は、「今日のようなハイブリッド(会場とオンライン参加)の形で、様々な方へ丁寧に質を維持して、回数も重ねて情報発信をすることが、いろいろな立場の方の相互理解につながると感じました。」とのまとめを述べ、ディスカッションを終了しました。
希少疾患とデジタルテクノロジーについて、最新の技術や取り組みをご紹介した今回のRDD 2023シンポジウム。デジタルテクノロジーがより発展した姿もイメージされ、医療とデジタルテクノロジーの未来、誰もが自分らしく過ごせる社会への期待が高まる会となりました。
閉会挨拶として、RDD Japan事務局 西村邦裕が、過去最大規模で行われている今年のRDD2023のテーマと取り組みを紹介しました。「皆さんの心の中でRDD、Rare Diseaseについて考え、思いをはせていただければと思います。」と参加者へ呼びかけました。
武田薬品工業では、今後も希少疾患の課題を解決し、世界中へ革新的な医薬品をお届けするためのデータ・デジタル・テクノロジーの活用に注力してまいります。
シンポジウム概要Rare Disease Day 2023 シンポジウム
つなげる!希少疾患とテクノロジー:
当事者・医療現場・支援企業の立場から
- 日時:
- 2023年2月12日(日)14:00~15:50
- 共催:
- 武田薬品工業株式会社、RDD Japan事務局
- 登壇者:
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一般社団法人WITH ALS 代表 武藤 将胤 様
国立成育医療研究センター 病院長 笠原 群生 様
エムスリー株式会社 ソリューションパートナービジネスユニット マネージングディレクター 業務執行役員 高山 哲也 様
パネルディスカッション進行:RDD Japan事務局 西村 由希子
フォトギャラリー
Photo Gallery
「世界希少・難治性疾患の日」
(Rare Disease Day:RDD)とは
2月29日がrare(稀)な日であることから2008年にスウェーデンで始まり、それ以来、2月最終日に世界各国でイベントが開催されている希少疾患の認知向上を目指すイベントです。
現在は述べ100カ国でRDDが開催され、日本では2010年の東京開催を皮切りに開催地域が増えています。
RDD Japan 2023 イベント全体のテーマは「つたえる、ひろがる、つたわる - Our odyssey with RARE」です。
- RDD 2023について
- https://rddjapan.info/2023
- 武田薬品工業株式会社 日本における希少疾患の課題
- https://www.takeda.co.jp/patients/rd-support/wp/